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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)1836号 判決

原告 福助足袋株式会社

被告 金子不動産株式会社

主文

被告は原告に対し大阪市東区南本町二丁目五〇番地上木造鉄板葺平家建店舗建坪六坪より退去しその敷地拾坪を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮りに執行することができる。

但し被告が金拾五万円の担保を供するときはこの仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、主文第一項記載の土地は原告の所有であるところ訴外伊藤富二郎は右土地を占有すべき何等の権原を有しないのに右土地上に主文記載の建物を建設し右土地を不法に占有していたので原告は同訴外人を被告として建物収去土地明渡の訴を提起し昭和二七年五月三〇日既に原告勝訴の第一審判決が言渡され(大阪地方裁判所昭和二六年(ワ)第一八四一号)該判決は確定した。

二、ところが被告は訴外伊藤が収去を命ぜられた建物の一部である主文記載の建物を使用占有してその敷地を不法に占拠している。

三、そこで原告は土地所有権にもとずき被告に対し右建物よりの退去並にその敷地の明渡を求めるものである。

と述べ、被告の抗弁事実を争い、

たとえ、被告と訴外伊藤富二郎との間に如何なる契約が存在しようとも既に右訴外人の本件建物を本件土地上に所有して右土地を占有していることが何等の権原に基かないものであることが判決で確定している以上右判決の反射効として被告の本件土地占有は原告に対して主張できないものである。

と、抗争した。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

一、原告主張の土地が原告の所有なることを争う。

二、被告が訴外伊藤富二郎から賃借占有中の建物は大阪市東区南本町二丁目四九番地の一宅地三一坪五合八勺地上の木造鉄板葺平家建店舗建坪約六坪である。

三、そもそも本件宅地及び同所四六番地の一乃至四九番地の一等一帯の宅地は元訴外故伊藤茂七の所有であつたところ大正九年一月一八日同訴外人が代表社員となつて設立された伊藤茂合名会社に対し現物出資として提供せられこれが出資の仮登記を了したるに過ぎなかつたが爾来名実共に同会社の所有として取扱はれ来つたものである。

ところがこれが出資の本登記出資者伊藤茂七が昭和一七年一一月二四日死亡し訴外伊藤茂雄(原告の前主)はこれが家督相続を為し次いで右訴外会社の代表社員となつたもので右伊藤茂雄も勿論本件宅地等を右訴外会社の所有物件として取扱い来つたものである。ところが戦災により右宅地上の建物は焼失したので右訴外人の義兄である訴外伊藤富二郎は伊藤茂合名会社の再興を期し訴外伊藤茂雄は勿論右訴外会社の総社員の同意を得て期限の定なく正式に賃借し本件宅地に多大の費用を投じて整地し本件建物を建築したもので断じて初より不法占拠したものではない。

然るにその後訴外人間に意思の疏通を欠くに至り本件建物の収去及宅地の明渡請求の訴を右伊藤茂雄個人より伊藤富二郎等に対し提起し来つたが右伊藤富二郎等に於て本件宅地が伊藤茂雄個人の所有ではなく又本件建物は不法占拠によつて建てたものでないと抗争中右伊藤茂雄は本件宅地一帯を抗争中であることを明示して原告に売却したもので原告はこれが登記を了すると共に原告主張の訴を同一理由を以つて伊藤富二郎等に提起し来つたものである。

加之伊藤富二郎は原告が本件宅地を買収する以前昭和二四年一一月初旬本件建物につき保存登記を了していたものであるにより建物保護に関する法律第一条第一項により右訴外人の土地の賃借権は当然登記なくして第三者である原告に対抗し得る筋合である。而して被告は昭和二五年一二月以来賃料一ケ月二万五千円で伊藤富二郎より本件建物を賃借しているものであるから被告の賃借権は原告に於てこれを承継承認すべき義務があると信ずる。

四、原告から訴外伊藤富二郎等に対する大阪地方裁判所昭和二六年(ワ)第一八四一号事件の判決が確定したことを争う。

右訴訟事件は控訴審において該事件の当事者に於て示談成立し原告は伊藤等に対し数百万円の金員を交付して控訴を取下げさせた上右地上の建物から立退かしめたものである。従つて右判決は或は形式上確定したことになつているが実質上確定したのではなく和解をなしているものである。

五、右理由なしとするも原告と原告の前主訴外伊藤茂雄との間における本件建物の敷地の売買は訴訟行為をすることを目的として為されたものであるから信託法第一一条の規定に反し無効である。従つて原告が本件土地の所有権を取得したことを前提として被告が賃借使用中の建物より退去して土地明渡を求めることは失当である。本件土地の売主となつている伊藤茂雄は原告を相手方として本件土地の返還並に移転登記手続請求の訴を御庁に提起し御庁昭和二九年(ワ)第二九五九号事件としてけい属中である。是即ち原告と伊藤茂雄との間に於ける本件土地売買契約につき甲第三号証(土地売買契約書)以外に何等かの秘密特約の存在するに外ならない。

原告が主張する御庁昭和二六年(ワ)第一八四一号事件の判決は仮りに確定したとしてもその確定判決の前提となつた土地売買は前述の如く無効であるとせば右判決も又実質上無効なりと云はざるを得ない。

と述べた。〈立証省略〉

理由

被告は本件土地(主文第一項記載の土地)は原告の所有でないと主張するけれども成立につき争のない甲第一号証の一、二第四号証によれば本件土地は原告が昭和二六年六月一四日売買により訴外伊藤茂雄から取得した土地の一部であることを認定するに足る。被告の全立証を以てしても右認定を左右するに足りない。又被告は本件建物(明渡を求める本件土地上の建物)は大阪市東区南本町二丁目四九番地の一宅地三一坪五合八勺地上にあるもので原告主張の土地の上に存在するものでないと主張するけれどもこれを認むるに足る証拠なく、却つて前記甲第一号証の一、成立につき争のない甲第二号証の各記載を合はせてみると本件建物は原告主張の本件土地上に存在することが認められる。他に右認定を覆す証拠はない。次に被告は本件土地は元訴外伊藤茂合名会社の所有に属していた当時訴外伊藤富二郎が同会社よりこれを賃借し本件建物を建設所有し且保存登記を経由したものであるから同訴外人は本件土地の賃借権を以つて原告に対抗し得るものであり、従つて同訴外人より適法に本件建物を賃借している被告は本件土地を不法占有するものでない旨主張するので按ずるに、成立につき争のない乙第一、二号証及び前記甲第二号証によれば被告は昭和二七年五月一〇日以前より本件建物を訴外伊藤富二郎より賃借していること又前記甲第一号証の一、二(大阪地方裁判所昭和二六年(ワ)第一八四一号建物収去土地明渡請求事件の判決及びその確定証明)によれば訴外伊藤富二郎は原告に対し本件土地を占有する権原がないことを理由に本件建物を収去して本件土地を明渡すべき旨の判決を受け右判決が確定したことを夫々認め得る。而して民事訴訟法の建前として判決の既判力が及ぶ範囲は訴訟の当事者及びその承継人の間に限られ、直接第三者に対してはその拘束力が及ばないのが原則であるけれども、第三者の法律的地位が訴訟当事者の有する法律的地位を基礎とし、これに附随してのみ成立し、その成否が専らこれに依存する関係に置かれているような場合には該当事者間に於ける土地所有権に基づく建物収去土地明渡義務が判決を以て確定された以上、その反射的効果としてこれに依存する第三者も自ら右基本関係を承認せざるを得ない結果となり、かかる基本関係についてなされた確定判決に拘りなく、附随的な法律関係のみが依然存続すると主張することは許されないものと解するを相当とする。従つて訴外伊藤富二郎より本件建物を賃借している被告は前記確定判決の反射効により最早右訴外人が本件土地につき賃借権を有することを主張することは許されず従つて又被告が同訴外人所有の本件建物に対し賃借権を有することを以て原告に対抗し得ないことになるわけである。従つてこの点に関する被告の主張は理由なくとうてい採用し難い。

然るところ被告は前記判決(甲第一号証の一)は控訴審に於て原告より訴外伊藤富二郎等に多額の金銭を贈与して控訴を取下げしめたものであるから確定していない旨抗争するので、考察するに一審判決は控訴期間経過後の控訴の取下により確定することは明かであり、右控訴取下が被告主張のような示談に基づくことは右結論を異にしないものと解すべきであるから被告の主張は採用しない。最後に被告は前記判決の基本たる売買契約は原告と訴外伊藤茂雄との間に訴訟行為をなすことを目的としてなされたものであるから信託法第一一条により無効であり従つて右判決も実質上無効であると主張するけれどもかくの如き事由は判決の確定後においては、これを主張することを許さないから被告の右抗弁も亦採用に由ない。

果してそうすると被告は原告に対し本件建物より退去してその敷地を明渡す義務がある。

よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行及びその免脱の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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